
2千年前『黄帝内経』に記されたハンセン病とは?
こんにちは。李哲です。
今日は中医学の雑談。
漢方薬でハンセン病の後遺症、ハンセン病を治した近代の論文もありますが省略します。今回は鍼灸だけ触れますので、ご了承ください。
以下は古文の引用。
たくさんある中で、2つだけ引用します。
「疠风者,素刺其肿上,已刺,以锐针针其处,按出其恶气,肿尽乃止,常食方食,无食他食」
『霊柩・四时気第十九』より
病大風、骨節重、髭眉堕、名曰大風。
刺肌肉為故、汗出百日。
刺骨髄、汗出百日。
凡二百日、髭眉生而止鍼。
『黄帝内経・長刺節論篇第五十五』より
(直接骨を刺すのではなくて、深いところを刺す意味)
合計200日(約7ヶ月)。ひげと眉毛が再生されたら鍼治療を終える。
大風(中医学での別名は癘風)というのは、現代でいうハンセン病です。18世紀にノルウェーのお医者さん:ハンセン氏が病原菌を発見したので、ハンセン病だと言われるそうです。
ハンセン病は癩菌(らいきん)が原因だと言われるので、西洋医学の治療では基本的に抗生物質。しかし、抗生物質だと薬剤耐性菌ができるので、いずれかは抗生物質も効かなくなる。それ以外に、抗生物質で免疫力低下も著しく現れます。
『黄帝内経』が教えるハンセン病の原因と鍼灸治療原則
『黄帝内経』の記録を見ると、2つの事が分かります。
一つ目は病気の原因、2つ目は治療法。
原因は「風邪(ふうじゃ)」→汗で追い出す
中医学でいうハンセン病の原因は、風邪(ふうじゃ)だから汗から追い出す方法を使います。
「ふうじゃって、具体的に何?本当に存在するのか?」
「なんでも邪気だと定義する中医学は、科学的根拠がない!」という方がいるかも知れません。
大昔は顕微鏡もないし、外から入るたくさんの病原菌を中医学では風邪(ふうじゃ)だと定義していました。インフルエンザも、中医学では風邪(ふうじゃ)が原因だと言います。
そもそも中医学の理論・概念は西洋医学と全く違うので、西洋医学の考え方で中医学を評価しないでください。
以下は一つの漢方薬治療例。あなたがインフルエンザであろうと風邪であろうと、中医学は気にしない。患者さんの症状をもとにして治療します。
基本は「腫れを刺して悪気出し」+「筋肉・骨を刺して200日汗療法」
- 腫れている所を刺し、すばやく中の物(毒液)を絞り出す。
- 筋肉と骨、両方を刺して汗をかかせ、風邪(ふうじゃ)を外に出す。
筋肉は中医学の理論で言うと、脾臓が司るもの。
骨髄は腎臓が司るもの。
つまり、脾臓と腎臓、この2つが大事なキーワードです。
ハンセン病の症状はいろいろありますが、その中の代表的なものを考えてみます。
- 鼻の骨が潰れて鼻がなくなる。これは骨(腎臓)と鼻(肺)に問題が起きている。
- 手足の変形などは筋肉と骨が関連しているので、これは脾臓・腎臓がやられたときの症状。
髭と眉が無くなる。髭は腎臓、眉は肺と関連しています。
鍼治療の場合は、脾臓・腎臓・肺のツボがメインだと予測します。たとえば脾兪、腎兪、公孫、復溜、太谿など。

原因は風邪(ふうじゃ)だと言うので、必ず風池・風府・血海・曲池などを刺して、患者さんが汗から風邪(ふうじゃ)を出すようにします。他には、その人の症状によってツボを選別する。
私はハンセン病を治療したことがないので、以上はあくまでも症状を見て予測したツボです。参考にしてください。
宋代名医が10壮のお灸でハンセン病を2ヶ月で完治させた記録
以下は中国のいろんな治療例ををまとめた書籍。
中には以前の治療例がありました。
窦材治一人病疠风,须眉尽脱,面目赤肿,手足悉成疮痍。令灸肺俞,心俞2穴各10壮,服换骨散一料,2月痊愈。
ここでは漢方薬もありますが、お灸したのも記録されています。
1958年・1999年!現代鍼灸で有効率75〜76%の治療例
中国のbaiduで調べてみたら、なんと60年前の記録がありました。
1958年、中国の医学誌『中国針灸』に載せた資料があったので、一部を抜粋して翻訳しました。(作者は葉鶴亭先生)
1954年6月~1955年10月、20人のハンセン病から来る目の症状がある患者さんを治療しました。
顕著に改善した人は6人、症状がよくなったのは9人、無効の人は5人。
ハンセン病から来る目の症状は、角膜が赤い、眼瞼の痙攣、目が痛い、なみだ目、目の異物感など。
治療例1
丁◯◯。27歳。男性。結核型のハンセン病。
左目の眼瞼けいれんと痛みが1ヶ月続いている。
左目がぎゅっと縮む感じ、なみだ目になる。左顔の側面と額が痛い。
検査では左耳の前、まゆ毛の骨のところ、全部圧痛点があり。左目上の神経が少し腫れている。
1回目の治療は曲部治療しました。太陽、四白、下關、百会(軽くお灸)、風池、合谷、列缺。鍼したあと痛みは軽減しました。その後は2日に1回の鍼治療。
聴会、翳風、行間などを追加して、合計18回で左目の眼瞼けいれん・なみだ目の症状は消え、左顔と目の上の痛みは治りました。ただし、左目の上の神経が腫れているのは変わらない。
鍼治療が有効な15人の平均治療回数は14回。
鍼治療が無効な人は発病してから1年以上経っているので、あまり効果がなかったです。
(ほかの治療例は似ているので省略)
ハンセン病は早期治療が大事。
(省略)
初期の目の症状には鍼治療が有効だけど、後期の視神経損傷などの場合は効果がない。薬物療法と併用する必要があります。
1958年资料1 针灸治疗麻风性眼病20例_百度文库より抜粋
(1958年『中国鍼灸』第01期49ページ目)
有効率を計算すると、15÷20=75%。かなりいい成績だと思います。
1958年の記録を疑う方に、もう一つ1999年『中国針灸』の論文を紹介します。登録してないので概要しか見れません。概要は以下の通り。
应用中国传统的针刺穴位疗法配合针灸按摩仪对日本国国立疗养所松丘保养园住院的麻风病后遗症25例患者进行了初步的治疗观察,结果缓解19例,无效6例,有效率为76%。
西洋医学ではあまり解決策がない後遺障害、鍼治療とあんまで改善が見られました。これは患者さんにとって、嬉しい限りのことでしょう。
なぜ古代中国にハンセン病が多かったのか?3つの理由
大昔からハンセン病の原因・治療法があったのに、なぜ中国にはたくさんのハンセン病患者がいたのか?
原因は3つ考えられます。
栄養不良と水質汚染
病気が多かったのは、昔の衛生状態が悪かったのと、人たちの栄養不良で免疫力が弱かったのが主な原因です。
幸いにも今は食べ物がなくて飢える事はない。飲む飲料水は、昔より遥かに安全である。大昔みたいに、栄養不良と水質汚染が原因で、病気で死ぬ可能性はとても少ないです。
また、水質汚染・栄養不良は過去の伝染病の大きな原因でした。伝染病が流行る条件に関しては以下の翻訳文が参考になるので、どうぞご覧ください。
治療法の情報が届かない時代
大昔は今みたいに、交通と情報交換が便利な時代ではなかったです。他の都市に行くのも、数ヶ月歩かないといけない時代で、情報が届いてないのは当たり前。
『黄帝内経』は2千年前からあったけど、ちゃんと読んで理解して、普及している人が少ないのも一つの理由です。今でも中国の漢方医・針灸医は、『黄帝内経』を読んでない人は多い。漢方薬・針灸で疾病を治せる事を知らない人すらいる。
悲しい現実です。
菌の感染症に関して、中医学より抗生物質だと思う人がいるかも知れません。こういう方は以下の治療例を読んでから、もう一度考えてください。抗生物質で感染症が逆に悪化して治らない時、漢方薬で治すのはダメですか?
手遅れになる前の早期治療が鍵
1958年の鍼灸治療例を見ると、早期治療が大事だと書いてあります。
大昔は情報閉鎖で、治療法が分からない人たちが多かったです。地元にハンセン病を治せる良医がいなかったら、あとは運命に任せるしかない。
たとえ良医を呼んだとしても、交通の不便で来るのにも日にちがかかります。数ヶ月、1年も放置して、その後にハンセン病治療を始めても効果が薄い。特に神経がダメになった時、中医学の治療でも難しいです。
後遺症にこそ鍼灸が必要!医療現場で普及すべき理由
『黄帝内経』の内容と近代の鍼灸治療例を翻訳したのは、皆さんに中医学は大昔からこんな記録があって、こんな治療法もあるのを紹介するためです。
針灸は腰痛・肩こりを改善するだけではありません。
針灸は様々な病気治療ができます。
上記の1999年の論文概要を見ると、日本国立療養所松丘保養園ハンセン病の後遺障害がある患者さんに有効率は76%。論文概要には完治だと書いてないけど、後遺障害を改善するだけでも十分役に立ったと思います。
患者さんのためになる。
患者さんのつらい症状が改善される。しかも副作用がない。
こんな治療法は、もっと普及すべきではないですか?

コメント
コメント一覧 (1件)
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ぺんたん さん
ブコメありがとうございます。
『黄帝内経』からいろいろ勉強になりますね、私もつくづく思います。